「山×歴史」で地域の魅力を引き出す達人 大内征さんインタビュー【第2回】
2017/06/07
低山トラベラー 大内 征さん 第2回(全2回)
「第1回」では、「山×歴史×ソーシャル」という活動にいたるきっかけや、主宰する「手書き地図推進委員会」についてお聞きしました。第2回目は、メディアのあり方や地域におけるコミュニケーションについて、実際に現場で得た知見なども踏まえて、たくさんのアドバイスをいただきました。
個人の魅力そのものがメディアになる
——マスとソーシャル。どのあたりに違いを感じられますか?
大内「発信する人が出す情報と、受信する人が欲しい情報にはギャップがあると言われますが、あまりそういうことを難しく考えないのがソーシャルのいいところでしょうか。公序良俗や礼儀みたいなことは当然ありつつも、世のトレンドや人の顔色を気にしないで、自分が素敵だと思うことを発信し続けることが許される世界。属人的なことなので、効率性とか全体性とかっていう、いわゆるビジネスっぽい思想ではなくて、その人ならではの視点とか感じ方が尊重される世界がソーシャルですね。もちろん、そこにセンスの差は生まれますが。
個人が面白い視点を持っていて、自信を持って愛しているとか好きとか言っていると、そういうワールドが自然にできあがってきますよね。マスでも、そういう書き手や発信者の“属人”を許容しているものは、ずいぶん個性的で面白いと思いますよ」
——属人が、面白さにつながる?
大内「はい、ぼくはそう考えています。創業スクールの講師なんかも勤めていますが、みんな似たような提案になっていて、色がわかりにくいというか。それなりのクオリティもあるし完成度もあるのですが、アイデアやトレンドが先行していて。もっとその人でなければダメなんだってことを出すといいなと思ったりします。なぜ、あなたなのか? なぜ、それをやるのか?
テーマを具体的にすることがとても重要だと思うんです。例えば僕だったら登山という領域では先輩方がいっぱいいますよね。もう一つ歴史散策という好きなテーマがありますが、こちらにも僕よりも詳しい方はたくさんいるわけです。でも登山をしながら歴史散策となると、テーマはぐっと絞られてライバルが減るうえに、自分の好き・得意の掛け合わせによって本領も発揮できる。『登山と歴史散策といえば大内さんだよね』というポジションをつかめる可能性が非常に高くなり、自分がやる理由もある。自分が好きな何かと何かを掛け合わせて、他にはない個性をつくる。こうしたテーマ設定やポジショニングは、いまの時代とても大切なことだと思っています」
——地方の人たちは情報の発信方法にも悩んでいます。テーマの掛け合わせに、ひとつのヒントがありそうですね。
大内「ありますね。肌感覚で思うのはコミュニティなのでしょうね。コミュニティって言い方をすると便利というか定義がはっきりしないところもあるから、あまり好きじゃありませんが、ある特定のテーマに関心を持つ人たちの集まりを“先”に作っておくことは、とても有効だと思います」
——そこから輪が広がると。
大内「例えば、勉強会。いきなり見えない多数の相手に向かって『写真講座やります!』というのと、機材自慢だけど実は使い方がよくわかっていない人を対象に『工場夜景の写真講座』をやるのとでは、ずいぶんやり方が異なります。後者を実現するために、まず機材自慢イベントなどを開いて参加者を集めておき、機材フェチならおそらく工場とかも好きだろうとか想像しておく。何度かそういうイベントを重ねてから『その自慢のカメラで工場夜景撮ってみない?』って提案する。集まる人は少ないかもしれないけれど、具体性が高まるから、集められそうな気になりますよね。機材フェチ×工場夜景。まあ、これはあくまで例えですが。
不特定多数の相手に情報を出すというのは、ある種の“安心”なんです。たくさんの人を相手にしているという期待。でもそれは、本当に期待が持てることなのか? ある特定のテーマとなると特定少数なので、その時点で不安になりますが、濃度という点では高確率になる可能性を秘めています。よくわからずに1万人に発信して10人集めるのと、知っている相手100人の中から10人を集めるのとでは、結果は同じでもやり方もコストも異なりますよね。
こういう具体的に絞ったテーマの“種類”を増やしていくことで持続性をとっていく。工場夜景に続く“機材フェチ”と掛け合わせるテーマは、コケ(マクロ自慢)とか、手品のトリック暴き(シャッタースピード対決)だとか。こうしてシリーズ性を出し、横展開させることで、やり続けていく」
——いきなりマスではなく、ステップを踏む、細切れで継続するわけですね。
大内「継続は大切です。積み重ねってよく言いますが、積み重ねぐらいだと甘くて、圧倒的にやったほうがいいと思います。その結果、他が追い付けないでしょう。ちょっと時間かかるかもしれないですけど、3年、5年後にこんな状況を生み出したいというイメージを立てておくといいかもしれないですね。ですから、小さなユニット、具体的なテーマで、その種類を増やすとか回数をこなすというやり方が、肌感覚としては良いなと思っています」
主催者自身が一番、楽しんで欲しい
——行政で言えば発信方法というか、表現力というか、そこもソーシャルのなかでは問題になりますよね。
大内「ハンコが多すぎるとか(笑)。発言する原稿そのもののチェックが多すぎて、その過程で個性がどんどん削がれてしまい、結局面白くなくなる。無難で“正確”なことしか発信できなくなる。たとえば、若いころに作家を志した文学部あたりの出身者がいたりするとします。この才能をそのままTwitterの発信に活かせたら面白いですよね。
ちょっとマニアックな文学を読んでいるとか、映画がすごく好きだとか、音楽が好きで日本のパンクしか聞かないとか。その“偏り”が最高だったりします。これは他にない感じになる可能性を秘めている。バランスを取ろうとして面白くなくなっていることは多いわけですから。ちゃんと愛を持ってやっているんだったら、その偏りは善い偏りだと認めて『君に任せる』と。ちょっとずつファンが付き始めますよ」
——そんな人の存在が、周囲が動くきっかけにもなりそうですね。
大内「企業も自治体も、30代〜40代の決定権を持ち始めるレンジの人たちが、現状を打破するために動き始めています。
今の状況にもやもやしている仲間と勉強会を開くなどのアクションを起こして、勉強会の終了後もSNSで意見交換を続ける。最初は5人くらい、でも2回、5回と継続していく中で、盛り上がりというか、『みなぎる』んですね。仕事以外の活動に好んで集まってくるメンバーはポテンシャルもあるし、いろいろな経験をしているはずです。さまざまな思いを抱えて物事を考え、地域にあるいい素材を活かしたくなる。トリガーさえ引いちゃえば、自由にいろいろなことをやり始めると思います。ソーシャルには、そんな動きを援護射撃する力があると感じています」
——最後に、地方創生を成功させる、一番大切なことは何だと思いますか?
大内「今までの実体験から、参加者が面白かった!と言うものは、やっぱり主催者自身が一番楽しんでいるものですね。主催者としてちゃんと進行しながらも、遊び心をもって“参加”している状況。特に、なにかを体験をしてもらうような企画なら、こちらの“お世話”が行き届き過ぎると、体験の意味が薄れていきます。ふつうは不便と感じるようなことを逆に面白がってもらうためには、主催者自身もその場で一緒に不便を体験している状況をつくることが大切だと思います。参加者とともに過ごしているという前提があれば、なにかアクシデントがあっても、てへっ!と言える雰囲気になっていて、一緒にそのアクシデントを乗り切ろうと提案できる状況が出来ているでしょうから。
それと、情報発信でいえば、完成した告知内容を一回でリリースしきるのではなく、その告知すら段階ごとに発信していくことです。やるという事実をまず予告して、その後少しずつ詳細を出していく。どうしても、詳細まで詰めてからリリースすることに慣れてしまっていますが、それでは一回発信して終了となりかねない。リリースそのものの予告をすることで、コミュニケーションする機会を増やすことにもなるので、これはとても有効です。
——我々はメディアをつくる立場ですが、自分たちで楽しんでつくったモノは、やはりデキが良いし、萎縮したものは小さくまとまっちゃう。基本は同じですね。今日は長時間、ありがとうございました。
Locomedian View
大内さんは様々なエピソードを実に楽しそうに語ります。手書き地図の活動もそうですが、大内さんに関わった人たちは、その人柄や話に引き込まれ、自分たちが気づかないポテンシャルを知らず知らずのうちに引き出されているのだと思います。プランやマーケティングも大切ですが、「主催者自身が一番、楽しんでいる状況」をつくる大内さんのような達人の存在が、実は地方創生の決め手なのかもしれません。
大内征 loca-rise production 代表/低山トラベラー
宮城県出身。地域の歴史や伝承を辿りながら山を歩き、日本のローカルの魅力を探究。足で覚えた山旅の愉しみ方を筋立てて、言葉と写真で伝えている。メディア出演や文筆、講座やワークショップの講師を通して、ピークハントにとらわれない新しい登山スタイルを提唱。登山や暮らしをテーマにした各地の団体・自治体の取り組みにも参画するなど、これまでにない“山×歴史×ソーシャル”の活動領域を切り拓いている。NHKラジオ深夜便「旅の達人~低い山を目指せ!」レギュラー、自由大学「東京・日帰り登山ライフ」教授、手書き地図推進委員会研究員。著書に『低山トラベル』(二見書房)。山岳雑誌・岳人で「歴史の山旅」を好評連載中。