LOCOMEDIAN

メディア・コミュニケーションを地域のチカラに変える ロコメディアン

足立区=“治安が悪い”はもう古い! 足立区のイメージアップ戦略を担う「シティプロモーション課」の挑戦

2017/06/14

東京都足立区出身、ヤマザキです。皆さんは足立区って知ってます?

「あの治安が悪いとこでしょ?」

よく言われます……。 情報を調べようと「足立区」と入力すると、「足立区 治安」と検索候補が出てくるなんて、東京23区で足立区だけだよ!!

そんな非常に悪いイメージを変えるため、区役所が頑張っているらしい。 これは足立区民として話を聞かねばと突撃取材してきました!

7年前、「余計なこと」と言われながら始めた取り組み


お話を伺った足立区シティプロモーション課の皆さん

――私は足立区出身なんですが、正直イメージはあんまりよくないですよね。そんなとき、区役所の方がイメージを変えるために頑張っていると聞いて、お話を伺いに来ました!

区外の方が持たれているイメージがかなり酷かったんですね。その影響もあってか、2009年の区の世論調査でも「愛着をもっている」人が67%いたにもかかわらず、「誇りをもっている」人は34.8%と、極端に差がありました。この状況を何とかしようと、民間から職員を採用して2010年に立ち上げたのが、専門組織「足立区シティプロモーション課」です。

――専門組織!すごそうですね。

ただ当初は、立ち上げたものの、何をするのかも決まっていなかったので…。まず目標そのものを考えるところからスタートしました。

――悪いイメージを払拭していくのは、本当に難しいですよね。

区としては、「イメージがよくなるようなこと」もたくさんやっていたつもりなんです。でも、それが区外の方どころか、区民の皆さんにも届いていない。イメージを変えるためには、情報を正しく伝えないといけないと考えました。
そこでまず情報の発信源、区役所職員の意識を変えることから始めることにしました。とはいえ最初は賛同者が少なく、帰りのバスの中で「余計なことして仕事増やしやがって」と話す声が聞こえてきたこともありましたね(笑)。

――やっぱり皆さんお忙しいですもんね。でも、そこで諦めなかったわけですね!

まずは戦略方針を立てました。今あるものを伸ばしていく「磨くプロモーション」、新たな魅力を生み出す「創るプロモーション」、そしてそれらを伝えるための「戦略的報道・広報」の3つです。

――「磨くプロモーション」とは?

足立区の取り組みを区民の皆さんに知っていただくために、広報物から変えていきました。職員の作成したポスターを見ていても、誰に何を伝えたいのかが見えてこない。伝えることが目的なのに、ポスターを作ることが目的になってしまっていたんです。これでは区民には伝わりません。
そこで、広報力アップを目指したワークショップを定期的に開催したり、制作段階で困った職員からの相談を受け付けるなど、伝わりやすいポスターにこだわりました。 「磨くプロモーション」には区長が一番力を入れていて、現在も、年間数百にもおよぶポスターやチラシを1枚1枚確認しています。「区長のチェックを通らないと外には出さない」という姿勢で職員育成を進めました。

左:before 右:after 取り組みの結果、驚くほどデザインが洗練され、伝わりやすくなっている

――上がビフォー&アフターなわけですが…、これは相当に磨かれていますね!

はい。かなり改善されたと思います。ほかにも、職員や区民の投票でポスターのNo.1を決める「ポスターチャレンジ」や、ワークショップの参加回数などに応じて名札に星印を付与する「シティプロモーター認定制度」など、職員のモチベーションアップに力を入れました。
やはり意識改革のためには自発的な力が必要ですし、自分たちの取り組みを自分たちで「認めていく」ことが必要なんですね。このような取り組みに参加した職員は、別部署に異動してからも、周りによい影響を与えてくれるんです。7年が過ぎ、職員の意識もかなり変わりました。今では、年間400件くらい広報物制作の相談に来るようになっています。

――「余計なこと」だと言われた7年前から、意識は確実に変わっていますね。

こういった職員向けの活動のほかにも、治安対策プロジェクト「ビューティフル・ウインドウズ運動」を展開しています。これは割れた窓ガラスをそのままにしておくと、やがてそれが凶悪犯罪の温床にもなるという「割れ窓理論」から着想しています。
「美しいまち」は「安全なまち」をキャッチフレーズに、街をきれいにすることが安全な街の根幹になるという考え方ですね。防犯パトロールをはじめ、花を植えるとか、街を掃除するとか、そういった簡単なことからやっています。実際に足立区では犯罪件数が減少しており、件数で年間では23区ワーストを脱却。人口比では23区内で9番目に少なくなりました。(取材当時の数字)
一時は「治安が悪いと思う」と答えた人のほうが多かった世論調査でも、2013年にその割合が逆転。現在は「よいと思う」人のほうがとても多いんです。データとしても、いよいよ「足立区は安全だよ」と言えるようになってきている状況です!

――確かに治安がよいとは言えない時期もありました…。でも本当に最近は悪くないですよね!

犯罪件数の減少もそうですし、ゴミが減って街が奇麗になりました。実は街路灯を新設して、夜の街がずいぶん明るくなっているんですよ!ひとつひとつの小さな取り組みが積み重なって、「治安がよくなった」と思う人が増えたのだと思います。

――磨くプロモーションの成果が出たわけですね。

大学・学生ともコラボレーションしたアートイベントを開催


――次は「創るプロモーション」について教えてください。

「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」というアートプロジェクトで音をテーマにしたアートイベントを展開しています。足立市場で、魚などを運ぶ運搬車「ターレー」に乗りながらオーケストラが楽器を演奏したり、シャボン玉を1分間に最大1万個生み出すマシンを50台以上並べて、無数のシャボン玉で見慣れたまちを一瞬にして光の風景へと変貌させるアートパフォーマンス「Memorial Rebirth」を開催したりと、ちょっと変わったイベントをやっていますね。



――そんなアートイベントを足立区で!?

北千住に東京藝術大学のキャンパスができたことをきっかけに、学生さんにも協力してもらっています。

――大学や教育機関の存在は、区の雰囲気にもかなり影響を与えそうですね。

東京藝術大学だけではなく、足立区には現在5つの大学がありまして、各大学との連携事業でリレーイベントを行っています。楽器のワークショップやまちづくりのワークショップなど、大学の専門分野によって、バラエティに富んだ取り組みがあります。

――大学が5つもあれば、学生も相当多いんじゃないですか?

今は昼間に大学生が1万人くらいいると思います。やはり若い人がたくさんいると活気づきますよね。学生向けのお店も増えて、閉まっていたお店が新しくなったりもしています。
北千住は「穴場だと思う街ランキング」で3年連続1位に選ばれているのですが、これも大きな要因になっていると思います。そこまで劇的に変わったわけじゃないんですよ。商店街だって昔から栄えていて人も多かったんですけど、ここ最近で再認識された印象があります。

――足立区の“よさ”が伝わるようになってきたわけですね。

そうですね。情報発信に興味があったり長けている若い人たちが、北千住にはもともといたと思いますし、またどんどん集まって来ています。お店の情報をSNSなどで発信しているのが広がっているのではないでしょうか。

――女の子が通うオシャレなお店も増えましたよね。

昔は足立区のパンケーキ屋さんに並ぶなんて考えられなかったですから(笑)。

――お店と言えば赤ちょうちんのイメージだったのに(笑)。

他にも、最近は空き家を改装して新しい施設としてオープンする方が増えてきていて、学生さんがアートギャラリーをやったり、外国人向けのゲストハウスが出来たりしています。新しい価値が生まれれば、それを中心に人が集まり、新しいモチベーションも生まれてきます。

――もともと無いものを創り出すわけですから、区民も積極的に協力しなければダメですね。

それが非常に重要です。街の皆さんにも参加いただけるような企画をしていき、いろんな人が繋がっていく。そうじゃないと役所がお金を出さなくなったら終わっちゃいますから。足立区はお金もあまりないので(笑)、出せる範囲の中でイベントをやって、それ以上の価値をみんなで創っていくことを目標にしています。

――どのイベントも楽しそうですし、気軽に参加もしやすい雰囲気ですよね。どんどん増えていったら区民の一人として嬉しいです!

メディア戦略もとにかく“地道”


――最後は「戦略的報道・広報」ですね。最近では、自治体が主導で本格的なPR動画を作成する自治体も多いと思いますが。

自治体のシティプロモーションとしては一般的な手法だと思いますが、足立区としては、新しく大きなイベントを立ち上げたり、ブランドメッセージを打ち出して派手に宣伝をしたり、PVを作ったりということはしていません。まずは区民の皆さんへの情報発信が第一というスタンスです。

――外よりも、まずは「区の中」によさを知ってもらうわけですね。

小さいことですが、プレスリリースは年間400件くらい出しています。区のPRになることはもちろん、区のイメージという意味では都合の悪いことも包み隠さず出すようにしているんです。
そうやって正直にすべての情報を出していることがきっかけで、メディアが取材に来ることもあるんですよ。

――メディアを呼ぶわけではなく、向こうから来てくれるようになったんですね。

最近はTVなどのロケ地探しのお手伝いもやっています。以前からお手伝い自体はしていたのですが、窓口を「シティプロモーション課」に変えたところ、名前から「何かやってくれるんじゃないか」って思っていただけたのか、随分と問い合わせが増えまして(笑)、年間100件くらいのご相談の中からいくつかドラマの撮影に使っていただいています。
そこでも判断基準は、ロケの企画が足立区民にとって、「いいこと」なのか「悪いこと」なのかという視点です。

――よさが伝わる企画ならいいですよね!知っている場所がドラマで出てきたらうれしいです。
ちなみに、足立区のイメージがアップしてきた今、外に向けての能動的な情報発信はあり得るのでしょうか?

次のステップとして、外に発信していくべきかどうか迷っているところです。ただ私たちはメディアに関して素人なので、下手に手を出すとお金ばかりかかって、費用対効果は薄いのかなと思っています。
取材に誠実に対応して、事実を事実のまま伝えて、いいと思えば使ってもらえる。これを無理に面白おかしく言っても仕方がありませんから。そうやって取り上げられた内容をみんなが見て、意識が変わっていけばいいですよね。

足立区サポーターを増やそう!


――これまでの成果はどうですか?

数字でいえば、設立前の2009年に34.8%しかいなかった「足立区を誇りに思う」人ですが、2016年には51.4%になりました。「足立区を人に勧めたい」人も2009年の32.6%から2016年は48%に上昇しています。

――すごい伸び率ですね。もはや生まれ変わったと言ってもいいんじゃないでしょうか!

「愛着はあっても誇りは持てなかった」状況から、確実によくなっていて、足立区のことを好きになってもらえています。
シティプロモーションを研究している先生が「その街に想いを持っている人がたくさんいるほど、その総量によって街の魅力が上がっていく」と仰っています。そういったサポーターをどんどん増やしていきたいと思います。足立区を“想いの総量”ナンバー1の区にしていけたらいいですね。

Locomedian View

もっと派手なことをやっているのかと思っていましたが、実際には取材前に想像していたより、ずっと地道で地に足の付いた取り組みをされていたのが印象的でした。でもその活動のおかげで足立区は現在進行中でよくなっていて、区民の意識も確実に変化しています。あとはボクたち区民ひとりひとりが街の魅力を伝えていく番なのかなと思いました。
目指せ、住みたい街ランキングの上位独占!!

この記事の著者

山崎 龍一(やまざき りゅういち)

株式会社shiftkey

東京都足立区出身。治安が悪いとよく言われる地域で育ちました。実際はそんなに悪いところではないので、気軽に遊びに来てください!左はイメージ画像で、実際はさわやか好青年です。


この人の書いた記事を見る

backnumber

「山×歴史」で地域の魅力を引き出す達人 大内征さんインタビュー【第2回】

pickup

富士山が見えるのは高度何m? 地元・埼玉県富士見市にドローンで協力しました